香川大学医学部 ゲノム医科学・遺伝医学  

研 究

遺伝子解析技術の革新的な発展により、疾患の病態解明のための研究はさらに拡がりをもつものと考えます。ある疾患にかかりやすい体質診断は、ヒトゲノムのほんの少しのDNAの塩基配列の違いが影響しています。また、遺伝子のDNAの変化だけでなく、mRNA合成でのスプライシング、マイクロRNAやnon-coding RNAの存在、エピゲノムによる遺伝子発現制御など、様々な分子機構がタンパクを合成する遺伝子の発現に関与しています。我々は、疾患やその病態の原因になる遺伝子の発現変化をこうした多方面から解析することによって、診断・治療にフィードバックできるような社会的貢献に立脚した研究を推進します。

ガレクチン4の機能解析
 ガレクチンは糖鎖のβ-ガラクトシド構造を認識する金属非依存性の可溶性レクチンで、多種多様な後生動物に幅広く発現している。ガレクチンと糖鎖との相互作用は進化的に保存された糖鎖認識ドメイン(CRD)を介して行われる。ガレクチンは通常その構造に基づいて1. CRDのみからなるプロト型、2. 約120アミノ酸のN末端非関連領域とCRDを合わせ持つキメラ型、3. 異なるCRD 2つがリンカーで連結されたタンデムリピート型の3つのサブタイプに分類される。
 近年、線虫(Caenorhabditis elegans), キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster), マウス(Mus musculus), ヒト(Homo sapiens), ネッタイツメガエル(Xenopus tropicalis), アフリカツメガエル(Xenopus laevis)など多くの生物で全ゲノムが明らかにされつつあり、 様々な構造型を持つガレクチン蛋白質をコードする可能性のある遺伝子がゲノムデータベースに多数アノテーションされている。哺乳類では現在までに15種(ガレクチン1~16)の遺伝子が同定されており、これらの組織分布や糖結合性はそれぞれ異なる。ガレクチンのアミノ酸配列は種間でとてもよく保存されており、特に-ガラクトシドとの結合に直接関与する7つのアミノ酸はほとんどの種のガレクチンで保存されている。ガレクチンの糖鎖結合性のバラエティーは主に糖認識部位周辺のループの長さ等で調節されている事が明らかになっている。各ガレクチンは各組織で様々な細胞表面上の糖タンパク質や糖脂質に結合し、胚発生、上皮機能、分化、自然免疫、腫瘍形成、がん転移などに関与することが示唆されている。しかし、その機能が細胞表面に発現する糖質と直接結合することに起因することが証明された例はごくわずかである。
 私たちは、特に消化管に多く発現するガレクチン4の機能に着目し研究をすすめている。ガレクチン4は正常消化管組織で高発現している一方、大腸がんにおいてその発現が減少することが知られており、私たちはその減少をタンパク質レベルでも確認している。そこで、7種の大腸がん細胞株におけるガレクチン4の発現状況を調べた。その結果、ガレクチン4の発現と腸の分化マーカーであるVillinの発現パターンが一致する事が明らかになった。これは正常および分化度の高い大腸がんではガレクチン4が発現し、悪性化に伴う脱分化によりガレクチン4の発現が消失する結果と一致している。現在、がんにおけるガレクチン4の減少と機能の関係性について詳細なメカニズムを大腸がん細胞、モデル生物であるアフリカツメガエルやマウスを用いて調べている。これらの結果を基に正常及び疾患時のガレクチンの役割について明らかにしていきたいと考えています。

(小川)